H&M中古販売「セルピー」が黒字化に苦戦、循環型ファッションビジネスの収益構造とはのニュース解説イメージ

VINTAGE & THRIFT / BLOG

H&M中古販売「セルピー」が黒字化に苦戦、循環型ファッションビジネスの収益構造とは

H&Mの中古衣料再販事業セルピーが採算化に苦戦している。ストックホルム近郊の倉庫には大量の中古品が積み上がり、査定・物流・在庫回転にかかるコストが利益を圧迫する構造的課題が浮き彫りに。循環型ビジネスの実務的な難しさと、企業が学ぶべき教訓を解説する。

ニュースの概要

Bloombergの報道によると、H&Mグループが運営する中古衣料再販事業セルピー(Sellpy)が、収益化に苦戦していることが明らかになった。ストックホルム近郊にある巨大倉庫には、ワンピースやパンツ、靴、バッグなど大量の中古品が集積し、中には1点5ドル前後で販売される商品もある。大手アパレル企業がサステナビリティ戦略の一環として中古販売・循環型ビジネスを拡大してきた一方で、実際には査定や物流、在庫回転にかかるコストが利益を圧迫し、黒字化のハードルの高さが改めて浮き彫りになった形だ。倉庫での作業実態は、理念と実務の距離を映し出している。

引用元: H&Mの中古販売事業が採算化に苦戦(Bloomberg)

分析・見解

なぜ「1点5ドル」の商品が倉庫に積み上がるのか

中古衣料の再販事業は、新品販売とはまったく異なるコスト構造を持つ。新品はメーカーから仕入れた在庫を、規格化された物流網で一括して動かせる。ところが中古品は一点ごとに状態も素材も異なり、写真撮影、真贋(しんがん)確認、クリーニング、値付けをすべて人手で行う必要がある。セルピーの倉庫に積み上がるワンピースやバッグは、一つひとつが「手作業のコスト」を背負っており、それが5ドルという安値でも利益を圧迫する理由になっている。実際、査定担当者が1点あたりにかけられる時間はわずか数十秒程度とされ、精緻な鑑定と採算ラインの両立は簡単ではない。

「循環型」を掲げた大手アパレルが直面する共通の壁

H&Mに限らず、ZARAを展開するインディテックスやリーバイスなど、大手アパレル企業はここ数年、中古販売や修理サービスを相次いで立ち上げてきた。背景には、欧州連合(EU)が進める拡大生産者責任(EPR、=メーカーが製品廃棄まで責任を持つ制度)や、若年層の「サステナブル消費」志向がある。しかし実際に事業を回してみると、査定人材の確保、真贋判定の精度、返品対応など、新品販売にはなかったオペレーションコストが次々と表面化する。セルピーの苦戦は、理念先行で始めた循環型事業が、実務のディテールで収益性を失う典型例といえる。同様の動きは、パタゴニアの「Worn Wear」やイケアの下取りサービスにも見られるが、いずれも中核事業ほどの規模には育っていない。

転売プラットフォームとの競争でも価格決定権を握れない

セルピーが直面するもう一つの課題は、メルカリや米国のThredUp、ポッシュマークといった専業の中古転売プラットフォームとの競合だ。専業プラットフォームは査定を自動化・簡素化し、出品者(個人)に作業を分散させることでコストを抑えている。一方、H&Mのように自社ブランドの在庫や下取り品を一括して扱う仕組みは、品質管理や店頭連動を重視するあまり、コスト効率で専業勢に劣後しやすい。専業プラットフォームは出品者に無料で出品させ、成約時に手数料を得るモデルが主流であり、在庫リスクそのものを負わない点も大きな違いだ。結果として、ブランドイメージ向上には寄与しても、単体事業としての採算ラインに届かないというねじれが生じている。

在庫回転の遅さが利益を静かに削っていく

アパレル業界では、新品の在庫回転率が経営指標として重視されるが、中古品はさらに回転が遅い。サイズや状態がひとつしかない一点物が多く、売れ残れば倉庫スペースと管理コストをそのまま食いつぶす。セルピーの巨大倉庫に滞留する商品群は、まさにこの構造を象徴している。今後は、AIによる自動査定やロボットによる仕分けなど、労働集約的な工程をどこまで自動化できるかが、黒字化の分水嶺になる可能性が高い。中古販売を「サステナビリティ広報」として割り切るか、それとも本当に黒字事業として育てるかで、今後の投資判断は大きく分かれるだろう。

ビジネスへの影響

循環型事業に参入する前に問うべき「単体採算」の視点

自社で中古販売や下取りサービスの立ち上げを検討している企業にとって、セルピーの事例は示唆に富む。ブランディング効果だけを目的に事業を始めると、査定・物流・在庫管理のコストが後から重くのしかかる。参入前に、査定作業の自動化率、返品率、平均在庫滞留日数といった指標を試算し、単体で黒字化できる規模とコスト構造を描いておくことが欠かせない。特に、査定作業のうち何割を自動化・省人化できるかは、利益率を左右する最大の変数であり、本格展開前の小規模なパイロット検証が欠かせない。

「小さく試して仕組み化」が現実的な進め方

いきなり大規模な倉庫と人員を抱えるのではなく、まずは特定カテゴリー(例えば自社の返品・過剰在庫品)に絞って小規模に始め、査定基準や値付けロジックをデータとして蓄積する進め方が現実的だ。AI(人工知能)による画像判定を使った状態評価や、需要予測に基づく値付けの自動化は、専業プラットフォームがすでに投資してきた領域であり、後発企業ほどこの部分を内製ではなく外部パートナーとの連携で補う判断も検討に値する。外部の中古流通事業者と提携し、査定・物流部分を委託するハイブリッド型の運営も、初期投資を抑えながら学習効果を得る有効な選択肢になる。

広報効果と収益目標を最初から切り分けて評価する

経営層が留意すべきは、循環型事業の評価軸を最初から二つに分けておくことだ。一つはブランド価値やサステナビリティ報告への貢献、もう一つは単体の損益。この二つを混同したまま「黒字化を目指す」とだけ掲げると、セルピーのように事業規模が膨らむほど赤字も拡大するリスクがある。四半期ごとに単体損益を把握し、赤字が一定水準を超えた場合の縮小・撤退ルールをあらかじめ取締役会で合意しておくことも、循環型事業を長期で続けるための実務的な備えとなる。

関連記事